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イスラームの国際法とムスリム世界の現状

セミナー・レクチャー

2013/3/4


開催日: 2013年3月4日(金)
場所: 今出川校地(烏丸キャンパス)志高館 GRMコモンルーム 
演題: 「イスラームの国際法とムスリム世界の現状」
講師:中田 考氏(GRM客員フェロー、元神学部・神学研究科教授)
司会:見原礼子(高等研究教育機構助教)

<概要>
カリフを元首とするウンマ(ムスリム共同体)が、異教徒で永代居住権を有する庇護民、短期滞在する安全保障取得者とイスラーム法の支配の下に共存するダール・アル=イスラーム(イスラームの家)と、その外部のダール・アル・ハルブ(戦争の家)の関係を律するイスラーム国際法は8世紀には成立した。このイスラーム国際法に照らしてイスラーム世界の現状を分析する。

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 中田氏の講演は添付ファイルの資料をもとに行われた。以下はこのうちとりわけ重点的に説明がなされたいくつかのタームに関する講演内容を簡潔にまとめたものである。
●シャリーア:シャリーアは、クルアーンとハディースの教えの体系であり、広い意味での「法」として捉えることができる。しかしシャリーアは、イスラーム法と訳されることも多いが、我々が通常考える「法」と比較すると2つの点で大きく異なっている。第一に、我々が考える「法」とは、ある行為が「法」に適っているか否かで判断されるものであるが、イスラーム法ではもっと広く捉えられる。すなわち、義務としての行為、禁じられている行為のほかに、義務ではないけれども行ったほうがよい行為、あるいは禁じられていないけれども行わないほうがよい行為、などといったように、幅がある。また第二に、シャリーアにおいては、罪を犯したときに受ける罰は、基本的に来世において受けるものである。
●カリフ制:西欧の政治の概念とは若干異なる。西欧世界においては、政治支配者の数が多ければ多いほど民主主義であり、その逆となると王制や貴族制と言われるが、カリフ制においては支配者の数はあまり重要ではなく、あくまでも神が人間を支配するというのが前提であり、現代においてはすなわちクルアーンとハディースに従うことが基本となる。その「法」を実際の人間社会で動かしていくのがカリフである。
●ダール・アル=イスラーム(イスラームの家)とダール・アル=ハルブ(戦争の家):ダール・アル=イスラームとはムスリムが住み、シャリーアが施行される空間・居住区のことを言う。ムスリムはその空間の中では自由に移動が可能である。対して、その外の空間のことをダール・アル=ハルブと言うが、日本語のニュアンス的には「無法地帯」というのがふさわしい。
●ズンマとアマーン:ズンマに関しては一度契約すると子子孫孫まで有効であり、異教徒の側から破棄することはできても、ムスリムの側から破棄することはできない。アマーンはそれに対し、現代世界で旅行に行くときに取得するビザのようなもので、イスラーム法のもとでは1年以内の居住権が有効とされる。
●ジズヤ:税金を払うこと。上記のズンマはジズヤ(税金を払うこと)の見返りに与えられる権利。異教徒であるまま、税金を払うことに応じる場合、ムスリムの側には拒否する権利はなく、当該の異教徒との戦争は起きない。またジズヤは定率ではなく定額。富裕層は1年間に4ディナール。(ディナールは金の単位で、90%である22金で作られるのが通常であった。1ディナールが22金の金貨4g弱に相当する。)中間層がその半分、貧しい人はさらにその半分。さらに貧困層は免除される。またそもそも女性、老人、子どもは免除。成人男性のみに課される税。
●スルフ:ダール・アル=イスラームで異教徒と交わす和議のこと。集団で暮らすなかで、異教徒がイスラームの規定と異なる食べ物を売買したり服装を着たりすることなどに関し、ムスリムの目に入るところでどの程度まで許容されるかについて条件を決めること。但し戦争をしていない場合に限る。戦争を行い負けて異教徒が降伏した場合は、ムスリムの目に入るところではイスラームの規定に背く行いはできなくなる。
●ジハード:第一に、ムスリム同士の戦いはジハードとは言わない。あくまでも異教徒との戦いのことを指す。第二に、ジハードはイスラーム統一のための戦争であり、異教徒の土地や財産を奪うなどという目的のもとに行われる戦いはジハードではない。 
 ジハードにおいて戦闘員と非戦闘員の区別は明確にされている。基本的には成人男性が戦闘員。子どもは無条件に非戦闘員であり、女性と老人、さらに宗教家も戦闘に参加しない限りは殺してはならないとされる。
 戦いの過程において、ユダヤ教と異なり、イスラームにおいては敵を捕虜にしてもよい。但しそもそも敵がイスラームに改宗すると宣言した場合、殺害することも捕虜にすることもできなくなる。
 捕虜は様々な対処の方法があり、殺害するか、奴隷にするか、身代金を取って釈放するか、あるいはイスラーム側の捕虜と交換することもできる。さらには無条件に解放することもできる。

文責:見原礼子(高等研究教育機構)