実績紹介Activities of GRM

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【授業紹介】GRMインフラストラクチャー基礎実験

研究活動・その他

2014/4/1


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文系の学生さんを「使える電気屋」に

「ヤマブキぃ,アンタんとこの高専では電気工事とか,そういうやつの訓練とかはやってないんかいなぁ?」

 2012年の秋も深まる頃,卒業論文から博士学位取得までお世話になった理工学部電力系統解析研究室の雨谷先生よりお電話をいただいた.

「はぁ,電気工事士という国家資格がありまして,建物内の屋内配線をするやつで,私が担当してウチの学生に教えてますけど….何すか,先生?」
「アンタは学生の時からフィールドテストや言うてそこらじゅうに穴は掘るわ,鉄塔は建てるわしてたから,土木作業は慣れとるわな.東電の110万kV送電鉄塔にも登ってたわなぁ.ところで,そっちの学校にユンボはあるんかいな?」
「えぇまぁ,現業系は得意なほうですね.今でもやってますし….でも,さすがにユンボはないっすよ?」
なんのことだかさっぱりだ.

「あのなぁ,文科省の「博士課程教育リーディングプログラム」に採択されてな.「グローバル・リソース・マネジメント(GRM)」プログラム言うんや.地政学を学ぶ学生の中には社会に出て,世界を相手に我が国のエネルギー資源確保に頑張ってくれる人間も出てくるやろう.そういう文系学生がインフラ技術の基礎知識を身に付けとったらものすごい武器になると思うんや.GRMコースの中にそういう授業を開講したいと思っててな,インフラに関して広い知識と技術を教えられる人間を探しとるんやけど,あんたはどうや?」

 なるほど,文系の学生さんを「使える電気屋」に仕込めということですな.ふむ,面白い.理系の高専生や大学生とは日常的に接しているが,文系学生と接する機会はほとんどない.バックボーンの全く違う学生に工学的スキルのエッセンスを集中的に叩き込むというのは教員としてはチャレンジングな課題に思える.また,定年退職まで1年余りの恩師の置き土産に協力しないとなければ仁義にもとるであろう.そして何より,コース設立の趣旨が小気味良い.

 さて,引き受けたはよいが、なにしろ前代未聞の授業科目である.どこまでやれるのか,どこまでやっていいのかレベル設定が難しい.原則として厳密な理論や小難しい数式は口にしない.あくまで身の回りの便利と不思議からスタートして,理屈をふわっとしたイメージで分かった気になっていただき,和田元教授担当の理論科目に引き継ぐ.そして可能な限り現物に触れ、実体験で自信を深めてもらおう.そして選んだ具体的なテーマは以下の通りだ.

 まずは,第2種電気工事士資格に準拠した屋内配線単位工作のトレーニングを実施.工具を使って電線を切ったり,つないだり.これで分電盤や既存ラインからコンセントを引き出すぐらいはできるようになるだろう.

 お次は,自家用発電機(ガソリンエンジン,太陽光パネル,小型風力タービン)の理論と運転.内燃機関の基礎を学ぶついでに自動車のロードサイドリペアレベルの修理テクニックについても触れよう.小規模太陽光パネルはポン付けで直流発電するから簡単.理屈よりもパネルサイズと実効出力電力の大きさの感覚を身につけてもらうことのほうが意味がある.近頃注目の風力発電だが自分で作れば新エネルギー活用の可能性と限界も理解できるはず.さらにバッテリー蓄電技術とインバータ変換技術を併用してマイクログリッドの構築もやってもらおう.

 強電分野だけがインフラ技術ではない. FM発信機を制作してラジオ周波数帯域での送受信を行えば音声通信技術の根っこは押えたことになるだろう.データ通信技術としてはインターネット通信の基礎はもちろん情報インフラ未整備地を想定した衛星通信モデムを用いたLAN構築まで実習範囲とする.低開発・紛争地域の地政学をリサーチフィールドとするグローバル・スタディーズ研究科の履修生には必要になるかもしれない知識だ.

 晴れて2013年4月,最初の受講生4名を迎えた.受講生たちのモチベーションは非常に高く熱心に取り組んでくれた.そして楽しんでくれたように…思う.私自身にとっても理系学生とはポイントの違う質問や物語調の実験レポートはとても新鮮であった.

 この内容がベストではなかろう.さらに改良を進めてよりよいものにしたいと考えている.さしあたり,2014年度のカリキュラムではパワーショベルの運転講習の追加を予定している.

 本講義の実施に当たってはプログラム・コーディネーターの内藤正典先生をはじめとするGRMプログラムの関係諸氏に多大なバックアップをいただいている.この場を借りて謝意を表したい.また,雨谷昭弘先生〔前GRMプログラム・アシスタント・コーディネーター,現在はモントリオール理工科大学教授,同志社大学名誉教授〕にはこのような機会を与えた頂いたことに心よりの感謝を申し上げたい.