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Arab Spring and the Democratization Process in the Middle Eastern Countries

セミナー・レクチャー

2013/6/8
グローバル・スタディーズ研究科   森山 拓也


Global Leadership Forum
開催日: 2013年6月8日(土)
場所: 今出川校地 神学館礼拝堂
演題: "Arab Spring and the Democratization Process in the Middle Eastern Countries"
講師: Wadah Aref A Khanfar(ワダー・ハンファル)氏〔Al-Sharq Forum 代表,元衛星テレビ放送局アル・ジャジーラ総局長〕

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 2013年6月8日「グローバル・リーダーシップ・フォーラム」第1回目の企画として、中東の独立系ネットワークAl-Sharq Forum代表(アルジャジーラ元総局長)のワダ・ハンファル(Wadah Aref A Khanfar)氏による講演が神学館礼拝堂にて行われた。 以下は講演の概要である。

1.アラブ世界の「不合理な」境界
 現在のアラブ世界の国境線は、第一次世界大戦終結後、この地域の植民地支配を目論むイギリスとフランスによって決められた。トルコやイランは一つの国民国家として残ったが、アラブは22ヶ国に分断されてしまった。だがアラブは本来、同じ民族として一つの国であるべきだ。欧米列強の介入によって引かれた国境線は不合理なものであり、正統性がない。そのため、アラブ諸国の支配者たちは国家の正統性を保つためにナショナリズムを強調し、それぞれの国民に「エジプト人」「ヨルダン人」「カタール人」といった意識を植え付ける必要があった。他方、国家がどんなにナショナリズムを強調しようと、アラブの人々にとって国境は無意味である。アラブ人の意識やネットワークは、同じ民族として国境を越えてつながっている。

2.変革の時代を迎えるアラブ世界
 我々の世代は変革を目にすることのできる幸運な世代である。前の世代の人々は、既存の秩序を受け入れるしかなかった。現代において変革が可能になった背景には、政治的成熟が若い世代にまで広がったことや、SNSの普及などメディアが多様化したことがある。
 アラブ世界で進行する変革は一様ではないし、それには長い時間がかかる。ここではアラブ世界をアフリカとアジアという二つの地域に分けて説明する。
 まずアフリカ側では、アジア側よりも変革が成功しているように見える。エジプトやチュニジアでは憲法が機能しており、国会に代表を送るシステムが存在する。また、様々に異なる立場の組織・団体が、国の将来について幅広い議論を交わしている。人々の間の対話は、独裁政権下では見られなかった現象である。今後、アフリカ側で暴力的な変革は起きないだろう。
 一方でアジア側では、イスラエル・パレスチナ、イラク、シリアに見られるように、異なる背景を持った人々の共存が実現されていない。元々この地域は肥沃な三日月地帯と呼ばれ、古代より文明が栄えてきた。そこはアラブ世界で最も多様性のある地域であり、様々な民族や宗教・宗派が長らく共存してきた。だがこうした共存は、この地域の支配を目論む欧米列強の干渉によって損なわれてきた。国境線によって分断された国々の指導者は、自国民の声よりも、自らの後ろ盾である欧米諸国の意向に耳を向けてきた。したがって支配層と非支配層は長らく分断されてしまい、変革期を迎えた今、その対立が表面化している。

3.国際紛争につながる宗派対立
 現在も続くシリア国内の紛争が長期化すれば、世界の権力秩序が崩壊する恐れがある。シリアの紛争にはロシア、中国、イラン、レバノンのヒズボラ、世界中からの義勇兵などが関与しており、それぞれの思惑が係わる国際紛争に発展している。
 最も懸念されるのが、宗派対立の拡大である。シリアではアサド政権側のアラウィー派と、反政府側のスンニ派の対立が深刻化している。イラクではシーア派主導のマリキ政権に対し、スンニ派やクルド人の反発が高まっている。宗派対立が激化すれば、紛争は国境を簡単に越え、複雑な民族・宗派構成を抱えるこの地域を一気に不安定化させる。
 さらにこれらの宗派対立は、地域の覇権をめぐるイランとアラブ諸国の代理戦争の様相も帯びる。フセイン政権崩壊を機にイラクに浸透したイランの影響力は、同盟国のシリアや、イランが支援するヒズボラのいるレバノンにも拡がっている。シリアやイラクにおける宗派対立の激化は、シーア派・アラウィー派を支援するイランと、スンニ派を支援するアラブ諸国の戦争に発展する恐れもある。それは第二次世界大戦後の最も大きな紛争になりかねない。

4.新しい中東の地図は可能か?¬――「新サイクス・ピコ協定」
 欧米の都合によるサイクス・ピコ協定でアラブ世界に勝手に引かれた国境線が、現在の不安定の原因となっている。そこで解決策として、中東の地図を新たに作り直す「新サイクス・ピコ協定」が議論され始めている。それは現在の国境線を一度解体し、民族や宗教・宗派の分布や、共通の価値観や地域の利益に基づいた新しい国境線を引くという提案である。だがその実現のためにリーダーシップを発揮できる国は、現在のアラブ世界に存在しない。

5.日本への期待
 日本は戦争や度重なる自然災害といった危機から国を建て直してきたことで、アラブ世界で尊敬されている。また日本に対しては、植民地支配を行った欧米や、アサド政権を支持するロシアや中国に対するような悪いイメージがない。アラブ世界は民主的対話や平和を実現するためのフォーラムを必要としており、それは日本や北欧諸国のような、前向きなイメージのある国によって主導されることが望ましい。日本がアラブ世界の問題解決に向けて果たせる役割は大きい。日本にはアラブ世界の問題にもっと積極的に関わってほしい。

6.質疑応答
 質疑応答では、トルコの反政府デモが中東の民主化プロセスに及ぼす影響、アルジャジーラの報道における中立性や、アルジャジーラのカタール政府やムスリム同胞団との関係、そして中東地域の将来などについて意見が交わされた。


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