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クジラと生きる人々を訪ねて

フィールドワーク

2013/9/20
グローバル・スタディーズ研究科   中尾 なずな


実施期間:2013年8月7日~9月5日
 
「クジラとイルカって何が違うの?」
今までに、何度この質問をされただろう。その度、私は決まって、「実は同じなんです」と答える。すると、ほとんどの人が決まって、「え!」と驚く。なにもこのやりとりに飽き飽きしているのではない。この驚きこそが私の研究の原動力であり、テーマでもあるからだ。

同じとはどういうことか。それは生物分類学上、クジラもイルカもひとくくりに「鯨類(げいるい)」と定義されるということだ。「クジラ」、「イルカ」という呼び分けには根拠がなく、便宜的に3~4m以下のものをイルカ、それより大きなものをクジラと呼んでいるにすぎない。鯨類の分類にはもっと重要なものがある・・・ということはここでは語りつくせないのでまたの機会にしたい。

私の研究は、多文化の共生の中でも特に「捕鯨」をテーマとし、小規模な地域密着型の捕鯨に焦点を当てている。修士論文ではデンマークの自治領であるフェロー諸島を調査対象とし、2012年8月に約3週間、2013年の8月に約2週間のフィールドワークを行った。

フェロー諸島は主に18の島々から成り、ノルウェーとアイスランドのほぼ中間地点に位置する小さな諸島である。起伏と傾斜の激しい岩山とその上に広がる濃い緑の牧草地のコントラストが美しい。島全体がフィヨルドを構成し、その入り江の海岸線にはカラフルな家々が立ち並ぶ。壮大な大海原を臨み、家からクジラの群れを発見することもある。
 

フェロー諸島に滞在して
現地調査の主な目的は2つあり、クジラ漁の過程を観察すること、そして可能な限り現地の人々の生活に密着し、話を聞くことであった。

滞在中、計3回の機会に恵まれ、漁のすべての過程を観察することができた。フェロー諸島には捕鯨の専門業者がおらず、クジラの肉は参加者の間で、無償で分配される。クジラの発見から、殺作業、分配、クジラ肉の加工に至るまでを、すべての過程を島民が一丸となって行う様子は、文献から感じ取ることはできない。漁の実行が決まった時の慌ただしさ、クジラが浜辺に追い込まれてくるまでの緊張感、個人間で役割分担が行われる連携した動きなどを、肌で感じることができた。

一週間のホームステイ生活の中では、フェロー人の日常生活を観察した。スーパーマーケットへ行けば何でもそろう便利な時代になった今も、フェロー諸島の生活には昔からの自給自足スタイルが根付いている。分配されたクジラ肉の塩蔵加工、夕食のための魚釣り、放牧している羊の解体に至るまで、フェロー諸島のほとんどの家庭ではこれらが日常的に営まれている。
 

参加することで見えたもの
フィールドワークの一番の醍醐味は、生の声に耳を傾けられることだ。ただ現状を傍観するだけでは見出せない何かを、人々の語りから拾い上げる作業が最も重要である。フェロー諸島での聞き取り調査からは、捕鯨の本質を垣間見ることができた。現在、捕鯨問題は国際的な論争となり、最も注目を浴びるものの一つとなっている。フェロー諸島は捕鯨反対の影響を受ける地域の一つであるが、緊迫した様子はなく、捕鯨に関する質問をしても人々は親切な受け答えをしてくれる。

数あるインタビューの中で多く聞かれたのが、「我々が捕鯨をやめるのは、反捕鯨の声に屈した時ではなく、クジラを食べなくなった時である」という意見である。現在のような捕鯨反対賛成論争の中では、文化の多様性が無視され、誰が何のために捕鯨を行うのかという当たり前のことが見過ごされてしまう。政治、社会、経済、国際関係など様々な要因がからむ捕鯨問題を、今一度、ごく単純な目線で観察することの重要性を、今回のフィールドワークで再確認できたように思う。

(GRM Newsletter Vol.1から転載)