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カンボジアにおける水インフラの構築と文理融合の知識

フィールドワーク

2013/9/10
理工学研究科   張 天


実施期間:2013年8月27日~8月30日

「プノンペンの奇跡」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

東南アジア最大の湖であるトンレンサップ湖が国の中心に位置し、大河メコンが北から南へ横断するカンボジア王国は、水の国というイメージがある。しかし、長年に渡った内戦によって上水道などの水インフラ施設は完全に破壊され、1993年には首都プノンペンにおいても水道普及率はわずか20 %程度であった。人々は安全な水を確保することはできず、苦しい生活を強いられていた。

そんな中、この問題に取り組んだのが日本の一自治体、北九州市である。北九州市は、1999年から市の水道局職員を専門家として派遣し、長年に渡って技術支援や現地スタッフの人材育成に力を注いできた。浄水施設の建設や配水システムの構築により水道水の安定供給に取り組み、また浄水技術の向上によりプノンペンで飲める水道水を実現させた。銃声の止まなかった1999年には夢だった、24時間給水、そして蛇口からの直接飲料を可能にさせたのである。さらに、20 %程度であった水道普及率は現在90 %を超え、この功績は「プノンペンの奇跡」と称えられている。

GRMの大きな目標の1つとして、発展途上国におけるライフライン(水、電気など)の構築が挙げられる。具体的には東南アジア、中東、中央アジアを主たるターゲットとして、これらの国・地域の復興や発展に不可欠なインフラ構築を手助けし、持続可能な発展の可能性を追求することや、途上国での取り組みの成果を日本に還元し、これらの諸国との戦略的パートナーシップを築いていくことである。今回、私は、この目標を達成するための手がかりを得るために、同様の取り組みを先行して行っている北九州市やプノンペン水道局を訪れ、実際にそのノウハウや課題を学んだ。

その結果、途上国でのインフラ構築のためには、理工学的知識だけでなく、人文・社会科学的知識が必要不可欠であることを痛感した。その国の歴史や文化、宗教、政治などを知らなければ、現地職員との信頼関係を築くことすらできない。また、国の持続的な発展のためには、単に浄水場の建設や水道管の修理といったハード面を改善するだけでなく、現地職員の育成など、ソフト面の充実も極めて重要であると感じた。

一方、私の専門は電気化学であり、研究では鉱石からレアメタルなどの純金属を製造する技術の開発を行っている。これは、今回のカンボジアで行った水インフラの調査とは全く関係のないものである。学問の細分化が進み、より高い専門性が求められているこの時代に、なぜ私が自分の研究と関係のないことをしているのか不思議に思う人も少なくない。

しかし、技術がめまぐるしく進化する現代において、自分の専門知識だけで新たな成果を生み出すことは非常に難しい。他が真似できないような研究を行い、新たな発見を生むためには、広い視野から物事を捉えていく必要があり、自らの専門分野だけに特化せず、幅広い知識から総合的に考えて研究を進めていくことが極めて重要であると考えている。

GRMの活動では、まさにそのような能力が大いに鍛えられている。カンボジアでの調査でも学んだ通り、他分野の専門家の知識やノウハウと、自分の知識やスキルを協業させることにより、成果に繋げていく。ここで培われる文理の壁を越えた新たな知識や柔軟性、これをさらに深めていくことで、途上国でのインフラ構築に寄与するだけでなく、自らの研究にも積極的に役立てていきたい。
 
 
写真1
プノンペンにある浄水場全体の様子
写真2
プノンペン水道公社にて。左から、荒木学北九州市議会議員、プノンペン水道公社のシム・シター総裁、盛満正嗣教授、公社職員、私、木山聡北九州市海外水事業担当課長


(GRM Newsletter Vol.1から転載)