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最新の技術を社会問題の解決に結びつけるために必要なこと

研究活動・その他

2014/11/10
グローバル・スタディーズ研究科   陳 艶


グローバル・キャリア・デザイン論
実施内容:日立イノベーションフォーラム(東京国際フォーラム)参加
実施期間:2014年10月30日、10月31日


日立イノベーションフォーラムは、日立グループが最新のITソリューションを紹介するためのイベントである。2014年に通算16回目を迎え、今回も講演・ビジネスセッション・シンポジウムなど、豊富な内容が用意された。また、社会イノベーションの実現に向けた日立グループの取り組みを紹介する展示会も同時に開催された。

初日の基調講演は、日立製作所執行役会長兼CEO中西宏明氏により行われ、資源・環境・水・食糧・人間安全保障・人口問題(少子高齢化、人口爆発)と貧困・格差が社会問題として提示された。これはGRMプログラムが解決を目指すものと大きく一致している。産・官・学の仕事内容は互いに異なるかもしれないが、その志は社会をより良い方向へ推進させたいという意味で一致しているのではないかと改めて気付いた。もともとビジネス展開のためのイベントであったが、研究者として多くのヒントを得ることができた。本稿では、今回の体験で得た知識を、GRMの教育方針に掲げられている「現地の人々の困難に寄り添い、人々と共に活動する中で得た知見と経験を、日本そして世界の発展へとつなげる」という精神と、私の研究課題である「中国少数民族地域における貧困削減と経済開発」に関連させて考えたい。その考察は、以下の3つの点においてまとめられる。

1. 農業情報管理システム
日立には、GeoMation Farmという農業情報管理システムがある。これは土壌情報管理や農作業管理、営農支援などから構成されており、具体的には、耕作前の土壌分析、作物の作付面積管理、肥料の投入量計算、農薬の適正基準判定、収穫マップの作成などができる。伝統的な農場とグリーンハウスのどちらでも利用可能であり、科学的な手段で増産を図ることが可能となる。技術の力で農業生産性が向上すれば、品種改良と肥料の開発が起こした「緑の革命」のように、社会に大きく貢献することになるだろう。

大学院に入る前から農業の開発に関心を持っていた。中国の農地には、平地で機械化が進んでいる地域もあるが、傾斜地にあるために収穫量を上げることに悩んでいる地域も多い。そこで日本の農業から何か参考にできるものはないかと考えた。安心かつ安全な食糧の生産から、「契約農業」「道の駅」といった経営・販売方式まで、多くのヒントが得られるはずである。日立の農業情報管理システムもまた、新しい視点で問題解決の方法を提示しているといえる。

2. 遠隔地における教育問題
遠隔地で上質な教育を提供することは、どの国でも見られる難問の1つである。人口の大多数が集まる都市部から離れていることは、遠隔地で生活している子供たちに、都市の子供と同質な教育を受けるための障害となっている。空間的距離は、資源配分の不均衡をもたらし、教育へのアクセスの問題とつながる。それは少なくとも学校、教師、その他教育資源という3つの面から考えられる。中国の例でいうと、高山地域では家が一箇所に集中しているのではなく、点在している場合が多い。村に学校があったとしてもバスがないため、学生は長い山道を歩かなければならない。数年前に政府が教育資源を統合するために小規模の学校を撤廃し、それぞれの地域に1つの「中心学校」を設置することにした。これは一部の生徒にとって、家から学校までの距離がかなり長くなることを意味する。通学時間が伸びると、家事を手伝うことができなくなり、その結果学校を辞めざるを得なくなるケースが多く見られた。教育へのアクセスが失われてしまったのである。それ以外に、遠隔地では教師という資源も非常に限られている。生活環境や給与など条件が厳しいために、学校があっても教師を集めることが難しい。1人の先生が1年生から3年生まで、語学から体育まで全ての科目を担当するケースもある。他にも、図書室・運動場といった施設や、インターネットを代表とする情報技術にアクセスする手段の乏しさも指摘されている。

こういった問題の解決をハイテク企業に求めたら、タブレットやマルチパネルメディアによる遠距離教育、オンラインレクチャーの導入、再生可能エネルギーによる電力供給などの答えが出てくるかもしれない。技術の投入は十分可能であるだろうが、鉛筆1本さえ買えない子供はどうやってタブレットを入手するのか考えてみてほしい。つまり、技術の受益者の状況を考慮した上で、その実行可能性について検討しなければならないのである。技術は、既に多くの資源を持っている人々により良い製品・サービスを提供するだけでなく、それ以外の困難な状況にある人々にも恩恵を享受してもらうことが重要だと考える。TEDフェローのマヌ・プラカシュが研究室の学生と作った「50セントでできる折り紙顕微鏡」のように、コストなどの様々な障害をはねのける斬新な発想が期待される。

3. イノベーション
ハーバードビジネススクールの教授であるロザベス・モス・カンター氏が「イノベーションを創造するリーダーの条件」という講演を行った際、以下のキーワードを提示した。
・好奇心と不満足(dissatisfy)
・アプローチする意欲
・ビジョンを描く能力
・パートナーシップ
・粘り強さ

私たちは日常生活の中で、未知なことに囲まれている。カンター氏が述べた「好奇心と不満足」の意味するところは、スティーブ・ジョブスの「Stay fool, stay hungry」と類似していると私は理解した。何らかのことに気を引かれ、「もっと知りたい」という気持ちでもう一歩進めば、新しい世界が開かれる。誰も見たことのない将来を、人を魅了する形で描き出す能力は、パートナーを集める時に不可欠なスキルである。また、たとえ環境に恵まれなかったり、失敗してしまったりしたとしても、成功するまで粘り強く試行錯誤と向き合うことが重要だ。研究者も企業家も、それぞれの好奇心を持って、各分野における社会問題の解決を目指して努力している。新しい技術で現状を改善するには、技術そのものの進歩だけでなく、カンター氏のいうリーダー的資質も備えていなければならない。