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GRMプログラム成果報告書

研究活動・その他

2019/3/30
商学研究科   陳 燕双


2016年4月,私は博士後期課程における研究生活をスタートした。それと同時に,多文化共生社会の実現と,その実現を支えるグローバルリーダーの養成を使命とする,同志社大学のグローバル・リソース・マネジメントプログラム(以下,GRM)の一員としての挑戦が始まった。
本報告書では,GRMにおける3年間の勉学と実践を通して得た文理融合の知識,研究調査方法と実行能力の習得,物事を俯瞰的かつ論理的に思考する能力,チームで他人と協働する能力,またそれらが自身の博士論文とどのように関連しているのかについて述べる。
2016年からの3年間,合計10科目のGRM授業,様々なセミナーを受けてきた。最初に受けた科目は沖縄・宮古島で4日間にわたって行われたGRMオンサイト実習Ⅰであった。この実習は,宮古島の独特の地形・地質・降雨量・再生エネルギーにおける優位,河川と地下水の特徴など理系知識を座学で学習した後に,当地住民の水資源に対するアンケート調査及びインタビュー調査をチームで実施するという内容であった。沖縄・宮古島に行く前に,事前の授業が行われた。研究調査において必要不可欠な知識としての研究調査法(質的調査,量的調査)を事前に伝授された。現地調査で任意の研究方法を使って「宮古島の水資源において供給側と受給側がそれぞれ抱える問題を明確にして,対策を考案する」という課題が与えられた。
オンサイト実習Ⅰを通して,影響を受けた3点について詳しく述べたい。それは,①エネルギー資源に関わる総合的な知識及び宮古島の水資源課題に対する理解,②異なる文化的背景の国から来たGRM生(チームメンバー)と共同研究作業を行うことができたこと,③研究調査方法の習得と実践ができたことである。
私(中国)はインドネシア,日本,パレスチナ,インドという,異なる国々から来た理工学のGRM生とチームが形成されることを事前の授業で知った。今までと次元が違う,よりグローバルな環境に置かれる自分が,チームメンバーとうまく交流できるのか,課題を順調に進められるのかという不安が強かったことを,今でも鮮明に覚えている。しかし,実際にみんなに会えた後,その不安はすぐに解消されたのである。それは,言葉が違っていても,顔立ちが違っていても,皆さんが優しくて笑顔を見せてくれていたからである。
宮古島でも講義が行われた。役所スタッフの話によると,宮古島では,5つの大きな潜在的課題を抱えていることがわかった。その5つの大きな課題とは,①雨量が少ない年における地下水消費過多の問題,②増加傾向にある旅行客のための新たな水資源の開発が必要である課題,③用水保護地域の規則外施設の建設,④不安定な気象変化,⑤水資源開発・調査における人材と予算確保の問題である。
講義の後に,実際にチームによる実地調査が始まるのだが,その前に,チームビルディングの段階で,「論理的思考に基づいて,問題意識を明確にし,問題解決型の研究発表を成功させる」という方針と共通目的がメンバーの間でまず共有された。その目的を達成するために,各自の役割を決め確実に果たすと同時に,主体性を持って意見を言い合い,協力し合う姿勢も,言葉の障壁,価値観の違いを超えて,チームメンバーの間で共有された。
1日という限られた時間の中で,問題意識の絞り込み,アンケート調査質問票の作成,インタビュー実施とインタビュー内容の分析,プレゼン資料の作成という一連の作業を完成しなければならない。最初の議論段階で,長い時間をかけても,意見がなかなか統一できなかった。メンバーの間で焦りも見えた。
その原因は問題意識も絞っていない段階で,調査質問票を作り始めたためである。その時,私は事前授業で教わった調査手順をみんなの前で共有することなど,チームの問題を指摘した。他のチームメンバーも納得して,問題の絞り込みから議論をやり直した。最終的に,宮古島の住民が毎日使用している飲用水に対して,どのような意識を持っているのか(満足度,懸念,節水意識)という問題意識に絞ることができた。質問項目を作り,論理が通った調査と研究発表もできた。担当教員に指摘された部分もありながらも,チームメンバーたちと研究発表を成し遂げた時の達成感,連帯感の喜びを共有することができたと強く実感した。
また,実習を通じて様々なリーダーシップスタイルを観察,体験することもできた。多様な国から来た学生との交流を通して,それぞれの文化的背景は異なるが,個人との関係という面で全世界に共通しているものがあることを再確認した。それは心を込めた真摯な会話とかけあいをすることで,人々はひとつになれるということである。その根底にあるのは人間性尊重ではないかと思い始めた。
さらに,この実習をきっかけに,実際に現地へ行き,目で確認し,その地の人々の声に耳を傾けるという現地調査に関わる様々な研究調査方法を学び始めた。オンサイト実習における研究調査方法に対する勉学と実践は,その後,私の研究対象である中国移植工場における参与観察とインタビューに役に立った。
主体性を持って真剣に真面目に取り組めば,得るものが必ず大きくなると,オンサイト実習Ⅰを通して強く実感したのである。主体性を持って真剣に真面目に取り組む姿勢はオンサイト実習Ⅰを通して確立され,それ以後,毎回のGRMの授業と活動に対して,その姿勢を心がけるようにしていた。
続くオンサイト実習Ⅱは,2017年3月にスロベニアとベルリンで行われた。実習Ⅱを通して,視野がより広げられ,難民問題に焦点を絞って勉強できた。2015年以後,シリア内戦によってシリアなど中東から来た難民はどれほどヨーロッパ社会に融合しているのか,どのような課題を抱えているのか,「多文化共生の本質は何か」を深く考える機会になった。また,スロベニアとドイツで,駐スロベニア日本大使館,スロベニア国会の方々と交流する機会を得た。社交の場も体験でき,世界観が広がった貴重な勉強の旅になった。
コモン演習ⅠとⅡでは,理系のGRM生とチーム形式で,カンボジアという発展途上国を対象に,政治,宗教,社会インフラ,教育,農村発展,貧困削減などをめぐる実際の社会課題の解決に取り組んだ。情報収集から,課題の分析・選定,対策考案まで,さらに,対策の実行を可能にするために,スケジュール管理,予算確保,資材調達,人員確保,協力機関の探索など,実際の状況を想定したプロジェクト企画案を策定するものである。コモン演習も,オンサイト実習と同じように,論理的思考に基づいた課題選定,チームの自律性が重視された。
コモン演習はⅠとⅡに分けて,2回もある。2回目のコモン演習では,私はチームリーダーの役割を初めて経験した。1回目のコモン演習の経験を受けて,2回目のチームでは,課題を遂行するにあたって,メンバー個々人が独自のテーマを選んで,それぞれ調べた部分だけを報告する形を極力避けるという方針を,メンバー間の話し合いによって共有された。1つの共通の課題に対して,理系と文系の知識をどのように統合して問題解決に活用するのか,その上で,チームメンバーはどのような役割を分担するのかを決めるようにした。また,毎週の進捗を担当教員たちに報告する際に,文系のメンバーも理系メンバーが調べた部分についても説明できるように,メンバーの間で事前に打ち合わせして,知識の共有を行うようにしていた。みんなで議論する際も,特定の一人が喋るのではなく,全てのメンバーが発言できるように,また,自分の意見を無理矢理に他人に押し付けることがないような環境づくりについて取り組んだ。
また,作業の進捗管理などにおいて,チームとしてのルールを作ることが指導教員に要求されたが,「時間厳守などの社会人としての基本マナーを守る」,「主体性と責任を持って取り組む」というルールしか作らなかった。しかし,みんなが自身の研究に没頭する中,打ち合わせに意欲的に参加できていたことに驚いたし,感心した。ルールは重要であるが,個々人の自律性を尊重したルールづくりが重要であることを改めて実感できた。
特定の1人の力で課題報告を結果的に完成することができるが,それがコモン演習の目的と価値ではない。コモン演習は,一人ひとりの主体性が発揮されたからこそ,長い時間をかけて出来上がった課題解決報告の価値が最大になると思った。
さらに,理系科目であるIntroductory Science and EngineeringとIntroductory Infrastructure and Engineeringでは,社会活動の基盤であるエネルギー資源の基礎的知識を学んだ。Introductory Science and Engineeringは,物理学の概念における「仕事」の定義から始まり,エネルギーの基本的な形態や,電気の発生・伝送・分配・利用,再生エネルギー,特に話題の原子力エネルギーまで,様々な理系における基礎知識を学んだ。Introductory Infrastructure and Engineeringは,エンジニアが社会インフラをデザインし,構築する際に応用する基本的な数学,物理学,統計といった基礎知識を最初に学んだ。しかし,この授業で一番重要視されたのは,それらの基本知識はどのような場面でどのように現実問題に活用されるのかであった。それについて,エネルギー供給,水資源供給,防災など,実際の事例に合わせて数式の応用が教えられた。文系の私にとって,理系科目の受講と宿題の完成には大変苦労した。しかし,基礎的な理系知識を習得することによって,それ以後,理系学生とエネルギー問題の議論を行う時に,話がスムーズになったと感じた。また,自動車工場における参与観察でも役に立った。工場の中で技術員が技術的問題の解決を行なうが,どういうメカニズムで問題が発生したのかを理解するのに,理系知識が必要であった。これらの理系知識は将来の生活においても,キャリアにおいても,必ず役に立つだろうと思われる。
フィールドリサーチⅠとⅡでは,日本の自動車企業A社の中国移植工場G社でインタビューと参与観察を行った。参与観察は,2017年の5月3〜18日の2週間にわたって行ったものである。最初の1週間は組立部に所属する組長,係長,課長という順にそれぞれ密着観察を行い,会話を録音し,いつ,誰と,どこで何を行っているのかをノートに記録し,許可を得たところでは写真で記録するという方法を取った。残りの1週間は組立部と品質管理部の技術員の仕事を観察し,あわせて人材育成センターの関係者や日本人出向者の話を聞いたりするなどのインタビューを行った。その間,A社で「自工程完結」という活動を提唱し,全社活動として広げた責任者S氏を迎えて行われたG社における「自工程完結」活動の推進報告会に参加できた。また,G社が主催担当になった中国事業体品質向上委員会の会議および現場報告会に参加できた。さらに,品質管理部の技術員の仕事の観察をする際に,仕入れ先1社への訪問にも同行できた。これらのイベントに参加できたことは,G社の活動をより俯瞰的に見ることに役立った。
GRMにおける実践を通して強化された「物事を俯瞰的かつ論理的に考える能力」は,博士後期課程の学生として自身の研究を遂行する上でも必要不可欠な能力である。「チームで他人と協働する」ことによって強化された調整能力は,参与観察とインタビューにおける細かい交渉と調整に役に立った。
GRMと博士論文の関係について,以下の2点がより大きかったと思われる。
第1に,博士論文の研究対象である日本自動車企業A社の中国合弁工場は,多文化共生を体現するフィールドであると言える。私は中国と日本の合弁企業である中国自動車工場というフィールドを通して,GRMで学んだ多文化共生に対する考えをより深めた。
博士論文は,日本の代表的な自動車企業A社とその中国合弁工場を対象とし,日本自動車企業の競争力を支える生産現場の組織能力(現場力)の構造と実態を,実証的に解明したものである。
日本の自動車産業の国際競争力を支える現場組織の能力(現場力)は,本国社会の諸特質を背景にして歴史的に形成されたものであり,それは長年にわたる人材育成,組織に浸透したビジョンや文化,仕事の進め方や情報の仕組み・制度など,多面的な諸要素が補完し合ってできあがっているものである。つまり,日本自動車産業の現場力は,本国の社会や組織に固着性が強い能力なのである。ゆえに,自動車産業の現場力の国際移転は困難であるという認識が定着している。
しかし,調査対象であるA社の中国合弁工場における調査を通じて,日本企業の現場力という本国固着性の高い組織能力が中国工場において,比較的高いレベルで移転されていることが明らかになった。なぜそれができるのかと考える際に,人に焦点を当て,人間尊重を根底に置く「多文化共生」社会の構築と同じ原理ではないかと思ったのである。研究では,特に海外移植の困難度が高い人材育成,文化・規範・価値観の浸透が中国合弁工場においてどのように行われ,どの程度達成されているかを詳細に観察し,厚く記述し,分析を行ったのである。
生産現場の維持機能,改善機能,人材育成機能という,G社の現場力を根源的に支えているのは,A社の日本工場と同じ文化・規範・価値観が合弁工場に深く浸透していることであることを明らかにした。その浸透を支えているのは,中国人の現場管理・監督者・製造技術員と階層の違いを超えて対等に連携協力しながら,共有された目的と課題に向けて協働するという,日本人管理者が仕事を通じて示す考え方(現地現物の論理的・科学的アプローチ),人間性尊重というA社の価値観に基づく誠実な言動,自律的判断を尊重して成長を待つ人材育成方針であることを解明できた。
多文化共生社会の実現においても,組織の長期的存続においても,人間性尊重を根底に置く価値観の確立と価値観の浸透を支える社会構造とリーダー,また価値観に共感し行動する社会構成員が必要であることは共通している。
第2に,博士論文の研究過程で応用された参与観察・インタビューといった研究方法を,GRMの科目を通して系統的に学び始め,オンサイト実習で事前に実践し練習できたことによる影響が大きい。また,実際にA社の中国工場で2回にわたる研究調査(インタビューと参与観察)と日本A社の管理者に対するインタビューを可能にしたのも,GRMである。GRM指導教員のソーシャルネットワークとGRMからの研究に対する経済的支援がなければ,研究調査を順調に進めることができなかった。
 結論として,3年間で学術的価値がある博士論文を完成させることができたのは,GRMから得た上述してきた諸要素があったからであると切実に思う。