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プログラム・コーディネーターからメッセージ

Message
プログラム・コーディネーター
内藤 正典(グローバル・スタディーズ研究科教授)
 
同志社大学大学院博士課程教育リーディングプログラム『グローバル・リソース・マネジメント』は、2012年度に多文化共生社会の領域で採択された。基本のコンセプトは次の3つである。
 

  1. ① 困難に直面する人びとに寄り添い、問題解決をめざしつつ新たな知を創造する

    ② 地球規模の課題群に取組むグローバル・スタディーズとインフラ科学を中心とする理工学分野を統合した文理融合カリキュラムを構築する

    ③ ①+②で多文化共生社会の実現をめざす
     
同志社大学では、大学院グローバル・スタディーズ研究科と理工学研究科とのジョイントプログラムで文理融合型の大学院教育プログラムをつくり、走らせている。この二つの研究科は基幹研究科として教育にあたり、神学研究科、文学研究科、法学研究科、社会学研究科、経済学研究科、商学研究科、総合政策科学研究科と多くの文系研究科が協力連携研究科(専攻)として参加している。プログラムは、学長を長とする同志社大学の高等研究教育機構の下に置かれていて、高等研究教育課が補助金執行から教務に関する事項までかなりの部分を担当する仕組みになっている。ガバナンスの質が高い点は同志社大学の強みである。

私がプログラム・コーディネーターとして、このプログラムを構想したのは、同志社大学に赴任して2年がたったころだった。夢は二つ。一つは、着任するときに勉強した創設者新島襄の教育理念を現代世界に活かすとしたら何ができるかという点。国立大学に長いこと勤務した私にとって、こういうことを考えるのは新鮮だった。国立大学というのは国家の使命でつくるのであるから、そもそも建学の理念のうえに学校ができるのではない。新島が官立の大学とは異なる人物を育てようとして同志社を建学したことは私にとって新鮮な視点であった。海外渡航が禁じられていた江戸の末期に、国禁を犯して渡米した新島の理念を今の世界において考えるとき、私の頭に浮かんだのが、世界で、今、最も困難な状況にある人々に寄り添うようにしながら新たな学問を構築するという試みである。リーディングプログラムは、グローバル・リーダーの養成を志向することになっているのだが、私の構想には、市場経済の成功者や統率者としてのリーダー像はなかった。良心を胸に、世界にはばたく博士号取得者を育てるためのプログラムを描きたかったのである。

もう一つ、理想としてはずいぶん昔から言われてきたものの、ほとんど実現したことのない文理融合型のプログラムを構築しようとした。世界には紛争があふれている。冷戦の終焉後、民族や宗教を理由にした紛争が増えたといわれるが、果たして、本当にそうだろうか。水へのアクセス、情報へのアクセス、道路の整備、電気は使えるのか――こういう日常生活の基盤をなすインフラの格差は、そのまま経済格差につながり、人の心を荒ませ憎しみを増大させる。民族や宗教の違いとインフラの格差が重なり合ったとき、民族紛争や宗教紛争といわれる衝突が発生するのである。理工学研究科の協力で、さまざまなインフラ科学関係の講義課目や実習科目が立ち上がり、人文・社会系のプログラム履修生は、自ら風力発電の風車をつくるなどして、味わったことのない知的興奮を経験している。理工学系の履修生もまた、オンサイト実習で、遠く、トルコとシリアの国境地帯にまで入り、シリアから逃れてくる難民救援のNGO活動に参加して、彼らにとって簡易で安価な電気の供給方法を考えている。どちらも、手と足を動かしながら思考を鍛錬するのである。

一つ一つの種は小さい。そして、このプログラムがめざす人物の養成は緒に就いたばかりである。良心教育という同志社の精神をもって、貧困や暴力に直面する人びとの心が平安を取り戻していくことに貢献することが、同志社大学の博士課程教育リーディングプログラム、グローバル・リソース・マネジメントの使命であり、目標である。

(GRM Newsletter Vol.1より転載)

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