GRM Students’ Reports
GRM履修生活動レポート
マリ北部紛争といま―現地ジャーナリスト、Amy Sanogo氏に聞く
グローバル・スタディーズ研究科 竹谷 まりえ
2014/05/25
(聞き手)筆者
2012年初旬、西アフリカに位置するマリ共和国(以下、マリ)北部で、独立運動が活発化、衝突が起きた。北・西アフリカを拠点とするイスラーム系武装勢力も参戦し、同年3月には、軍によるクーデターへと発展、暫定政権が樹立された。国際社会への援助要請に対し、2013年1月に仏が軍事介入を行った。仏に加え、アフリカ連合軍として隣国等からの軍事支援や介入により、イスラーム系武装勢力は撤退していく。その後小規模な戦闘がしばらく続いたが、2014年5月北部独立運動団体との停戦がなされ、現在平和の模索が進められている。
マリの首都バマコを拠点としている 新聞社L'inter de Bamako 代表のAmy Sanogo氏に現在の状況を聞いた。
-2012年の紛争が起きた原因について、どうお考えかお聞かせいただけますか。
私は、バッド・ガバナンスがこの紛争の主な原因だと考えています。マリは経済的に問題を抱えている国ですが、文化的に豊かで国民はこの文化的価値に愛着を持っています。マリは124万平方キロメートルにもおよぶ広大な領土に、バンバラやフラニ、ソニンケ、ドゴン、ソンガイ、タマシェクなど多種多様な民族が共存や寛容、相互扶助といった慣例や習慣とともに長く共生してきました。国民の9割以上がムスリムでありますが、政教分離の原則を憲法に制定し、キリスト教徒やアニミスト等のその他の宗教コミュニティと共生しています。人口の30%を占めるマジョリティはバンバラ族で、バンバラ語が最も話されてる言語ではありますが、バンバラ族でなくても、バンバラを話す人も多い。マリの人たちは、様々な改革や転換を行う際、必要な変革を行う前に、この変化は一般的にいつも成功するとは限らないわけですが、その前に我々(マリ人)の価値基準、価値観を考えるのです。つまり共生の価値です。この相互扶助の文化や歴史的背景から、首都の人々に住む人々は、この紛争をフランスによって引き起こされた紛争と考えています。つまり、この紛争は「人道主義」の名の下にやってきたNGO、多くがフランス等のヨーロッパ系のNGOですが、彼らによって引き起こされたと考えているのです。北部へのNGOの急激な増加は、北部で相互扶助の関係の中で共存してきたトゥアレグやソンガイ、ベラといった民族コミュニティ間の衝突を助長してしまった。特にマリの北部は天然ガスといった天然資源に富んでいる地域。バマコでは、旧宗主国のフランスが既存の政権を援助している一方で、政権に対して武装している反乱軍を作り出していると、フランスのアフリカ政策を非難している人々もいます。
-2013年のフランス軍やアフリカ連合軍の介入後、停戦合意がなされて、マリの北部の平和のための平和構築のプロセスが進められているとは思いますが、現在(2014年5月)はどのような状態ですか?
キダルやガオ[注1]といった北部では、戦闘が未だ続いているところもあります。それに、平和構築のための和解プロセスは分裂してしまっています。これには2つの問題があるでしょう。まず、平和構築・調停という目的が同じ組織を3つも創設したこと、そしてこれらの組織で働く職員が十分な質を持っていない点です。そのため、和解プロセスは成功するのかという疑問を国民が持っているのが現状です。
-今回の紛争では、AQMIやMUJAO、アンサール・ディーン [注2]のようなイスラーム主義者、ジハード主義者と呼ばれる運動の影響が大きかったわけですが、なぜこのような運動が台頭してきたとお考えですか?
マリはイスラーム教が深く根付いている国ですが、政治がこれらのイスラーム主義運動を作り支える土壌を作っていました。貧困です。マリの貧困は言葉では表せないほどです。紛争はイスラーム主義者の影響を色濃く受けています。なぜなら、かれらの運動が人道的一面を持っていたからなのです。人々に無料で食料や金銭を与えていました。ただ、彼らは後援者がいたと考えられています。彼らの後ろにいる何者かが北部から撤退して、武器や情報部を失ったとき、マリは彼らイスラーム武装勢力を制圧できるでしょう。
-暫定政権から現在のイブラヒム・ブバカ・ケイタ大統領政権に移行して半年以上が経ちますが、何か変化はありましたか。
現在のところ、大きな変化はなく閉塞感が漂っていますね。ガバナンスの点からみても何も変わっていない。首相は国民議会で1席のみを有する小規模政党の出身です。何も変わっていません。大統領と首相は度重なる対外政策のための海外出張をおこなう一方で、国民はどうにか貧困から逃れようともがいている状態が続いています。
[注1] キダル、ガオともにマリの北部に位置する都市。紛争中に戦場となっていた。
[注2] AQMI (Al-Qaida au Maghre islamique, イスラーム・マグレブ諸国のアルカイダ),MUJAO (éouvement pour l'unicité et le jihad en Afrique,西アフリカ統一聖戦)、アンサール・ディーンは、北・西アフリカに拠点をおくイスラーム系の武装組織。
[Amy Sanogo 氏略歴]
1960年マリ南部シカソ生まれ。マリの首都バマコを拠点としている 新聞社L'inter de Bamako 代表。セネガル、ダカール大学でジャーナリズム学を学んだ後、1990年代初頭に同社を立ち上げる。