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GRM Students’ Reports

GRM履修生活動レポート

最困難国シリア内戦の現状

グローバル・スタディーズ研究科 乾 敏恵

開催日: 2013年6月17日(月)
場所: 今出川校地(烏丸キャンパス) 志高館 SK119
演題: 「最困難国シリア内戦の現状」
講師: 常岡浩介 氏〔フリー・ジャーナリスト〕,中田 考 氏〔元・神学部・神学研究科教授〕
司会: 内藤正典 教授〔グローバル・スタディーズ研究科〕

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 GRMレクチャーシリーズとして、フリージャーナリストの常岡浩介氏および元・同志社大学神学部・神学研究科教授の中田考氏に「最困難国シリア内戦の現状」について講演を行って頂いた。常岡氏の講演の後、中田氏に講演を行って頂いた。
  グローバル・スタディーズ研究科の内藤正典教授は講演に先立って次のようなことを述べた。「シリアは21世紀において最大の人道の危機であるといえよう。現在のシリアにGRMの学生を送り込むことは不可能であるが、彼らが現在の紛争地域つまりシリアにおけるポスト・コンフリクト期を考える時が必ずくる時のために、実際にその現場に足を運んだ人から生の声を今、聞いておく必要がある。」このような趣旨の下、GRMレクチャーシリーズは開催されているといえよう。


1.常岡氏による講演
  常岡氏は今回の訪問地がシリア反体制派の支配地域であったこともあり、密入国という形になったが、シリアにおいて約18日間の取材を行った。その際、シリアへの入国を手助けしたのはトルコにあるNGO・IHH(イーハーハー)であった。
  シリアではヌスラ戦線(シリア・アルカーイダ組織)やムハジディーン(反体制派外国人義勇兵)などの取材を行った。ヌスラ戦線に所属する義勇兵はトルコ系やアラブ系が多く、彼らへの写真撮影では、彼らが母国に帰国すると逮捕される可能性があるため、なかなか撮影を許可してくれなかったようである。しかし、ごく稀に撮影を許可する者もいた。
  入国当時、シリアのアルカイダであるヌスラ戦線に迷い込んだ。危険な状況であったが、運よくもその兵士たちがムハージリーンと連絡をとってくれ、最終的に ムハージリーンまで辿りつくことができた。さらにヌスラ戦線の兵士ともコミュニケーションすることができた。ヌスラ戦線の司令官にではないが、迷い込んだヌスラ戦線のグループのリーダーはイラク人で、彼らはシリアのカリフ制を目指している。現在のシリアは世俗的であり、イスラムがあまり周知されておらず、彼らがイスラムの見本をみせ、国民を納得させることで、徐々にカリフ制をシリアに導入させたいということであった。
  反体制組織のではチェチェン人が多く所属している。彼らはチェチェンから直接シリアに入国したのではなく、ヨーロッパ諸国、主にフランス、ドイツ、ベルギー、オーストリア、スウェーデンなどを経由している。そのためか取材を行ったヌスラ戦線ではロシア語やドイツ語が共通語となっている。チェチェン人の多くは、難民もしくは移民という形でシリアやトルコ、レバノン、ヨルダンなどに入国し、シリアでは反体制派として戦闘に参加している。どうやら彼らにとって、ヨーロッパよりもシリアの方が生活し易いようであり、これはヨーロッパにおけるイスラムに対する問題が背景にあるということであろう。
  カザフスタンやウズベキスタンなど旧ソ連諸国では、サラフィー系のイスラム教徒の場合、各国内から彼らへの風当たりが強く、不当に逮捕されることもある。そこで彼らは、母国からシリアやレバノンなどへ脱出している。
  サラフィーはアラビア半島のアルカイダとして認識されているが、自らをアルカイダだという認識はない。シリアでのカリフ制の国家建設を目指し、アサド政権崩壊後は自由シリア軍と手を組むのではなく、むしろ武装解除は行わないようである。しかし、一部のサラフィーではカリフ制を主張していない組織も存在する。
  さらにヌスラ戦線などは反米組織ではなく、彼らの敵はアサド政権であり、イランやヒズボラ、ロシアである。彼らはアサド政権を倒すことは「ロシアに一矢報いること」だと考えている。
  反体制派の武器に関しては、自動小銃などが潤沢であり、資金周りが非常によいという状況である。反体制組織へのシリア政権側からの攻撃は主に高高度からの空爆で、反体制組織による地上からの攻撃を避けようとしているものである。そのため多くの民間人が巻き込まれるという状況である。しかし常岡氏が取材を行ったジャワラトルクマンでは、戦闘は激しくなかったようである。


2.中田考氏による講演
  イスラム思想研究という視点からシリアを考察しており、3日間シリアに滞在した。ヨルダン人やチュニジア人、エジプト人などから構成されているサラフィー系の組織とコンタクトを取った。20数年前まではカリフ制の再興はなかったが、今回はその再興が起きている。この組織には反米意識はなく、反シリアであり、アラブ民族主義である。
  中田氏が訪れたアルバーブでは黒旗を掲げるサラフィー系の組織が支配していたが、自由シリア軍も存在していた。反政府組織は主にジャバットもしくはヌスラである。この2つの組織はアルカイダとの関与が疑われており、アメリカは支援したくないようである。しかし支援しなければ、アサド政権側が勝利する可能性があり、アメリカにとっては難しい選択であろう。
  中田氏が訪れた時、武器は不足しているという状況であった。武器の支援は組織的にどこかの団体や国家が行っているようではなく、ほとんどが手作りで、1日に迫撃砲を80発ほど製造している。爆薬は主に不発弾から調達したり、第1次世界大戦時のイギリス軍が残していった地雷を掘り起こしたりすることで、それを利用している。


3.質疑応答
Q. 現地の様子はどのようなものであるのか。

A. IHH(イーハーハー)による兵站基地が構築されていることがあった。ジャバルトルクマンでは、アレウィーは脱出しており、その人々の家屋をムハジディンが占拠していた。IHHの基地もアレウィーの豪邸を占拠していた。戦闘がほとんどない地域ではホテルやレストランが営業していた。数時間程度なら電力を使用することもできた。


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