GRM Students’ Reports
GRM履修生活動レポート
GRMフィールドリサーチ
グローバル・スタディーズ研究科 真崎 宏美
2018/10/12
実施期間:2018年8月16日~2018年9月11日
場所:サンビア・ルサカとその周辺地域
本調査は、アフリカの理数科教育開発において、日本による教育支援の地域化の過程をザンビアを事例に考察すべく、教育関係者を対象に調査を行うことが目的である。対象地域は、ザンビアの首都ルサカ、中央州、コッパーベルト州の3州であり、中等教育課程の理数科目教員を中心にインタビュー調査を実施することが主な活動内容である。調査期間は、当初17日から10日までの24日間であったが、台風の影響で行きの飛行機が遅延したため、滞在日数が2日ほど短くなった。従って、実質調査の滞在期間は約22日間で、滞在期間の前半はルサカを中心に調査を行い、カンファレンスに出席するために西部州へ訪れた。後半は中央州のカブウェ、コッパーベルト州のキトウェを中心に調査した後、ルサカへ戻って再度調査を行った。
本研究は、日本の独立行政法人国際協力機構(以下JICA)の支援プロジェクトの実施地域を参考にしているため、調査対象地域や対象教員は理数科教育支援プロジェクトのフェーズ1から3に沿って選定した。まずは調査の流れを説明する。ルサカ到着後は、最初にNational Science Centre(以下NSC)にて調査のアレンジをしてもらった。NSCは、理数科目の教材研究開発や教員研修等を実施する、教育省管轄の教育研究機関であり本研究の調査許可証はこの機関の支援を受けて教育省から発行された。ザンビアの各州の学校等に調査を実施するためには、まずNSCから対象州で調査可能な学校を選定してもらい、実際に調査を実行できるように教育庁に向けてレターを作成してもらう必要がある。それを教育庁へ提出した後、教育庁から調査可能な学校の責任者(校長)の連絡先を共有してもらい、自分で各学校へアポイントを取っていくというのが調査までの流れとなっている。実際の調査では、この流れをそれぞれの州で行った後に学校でのインタビューが可能となる。
次に調査の内容について説明する。サハラ以南アフリカ地域における理数科教育開発の中でも、ザンビアでは継続性を重視しており、各学校ベースで理数科教員同士の学び合いの場を設け、日本の授業研究アプローチを応用した形でその学び合いの場を運用していることが大きな特徴である。従って、今回の調査では、最初にこのような授業研究を取り入れた教員教育の導入と普及に携わったJICA専門家、教育省職員の方にインタビューを行い、その後各州の学校や地区で積極的に理数科教員の能力向上に携わっている教員の方々にお話を伺った。また、これらの教員の活動をサポートするため、各州や郡に設置されている教員リソースセンターから派遣された学校専属コーディネーターの方にも、お話を伺うことができた。
JICA専門家と教育省職員の方のインタビューでは、理数科教育開発の中でも理数科教員教育システムをどのように運営・管理・モニタリングしているのか、教員教育における「ザンビアらしさ」とはなにか、アフリカ全体に広がる理数科教育域内ネットワークの設立時期の課題認識や現状と課題についてなど、全体的なマネジメントの大枠を掴むためのマクロな質問を主に行った。各学校の教員の方に関しては、学校内でどのように授業研究を行っているのか、以前と比べて教員自身の能力や教員同士の関係性にどのような変化があったか、「Learner centered idea(学習者中心の授業)」をどのように捉えているのか、などの質問を行った。得られた成果としては、主に3点ある。一つは、理数科教員教育において日本のアイデアを参考に取り入れた授業研究アプローチを、ザンビア特有の形に変えて運用していることである。日本で行われている授業研究とは、教員が一人で授業計画から模擬授業を担当する流れが一般的で、観察者の他の教員や関係者から模擬授業後フィードバックをもらうことで、担当教員は授業運搬能力の向上を図る。しかし、ザンビアでは、模擬授業の授業計画は基本的に担当科目の教員全員でグループとなって行い、そのグループから選ばれた教員が模擬授業を実施した後、フィードバックを全員で行うのが通常の流れである。教育省の職員の方や各学校の教員の話から、このように担当科目の教員全員で授業を計画し、全員で観察からフィードバックまで行うという「チームワークとしての授業研究」のあり方が重要とされていることがわかった。二つ目は、この学校ベースで行う教員教育システムが、各州や郡に配置されている教員リソースセンターによってモニタリングされ、継続的に行われるように制度の中に落とし込まれていることである。ザンビアでは、授業研究を取り入れた教員教育を継続的に実践できるように、CPD(Continuing Professional development) プログラムという既存の教員教育システムの中の活動の一環として、授業研究が組み込まれている。また、教育省の教員教育を運営する教員リソースセンターから各学校へコーディネーターが派遣されており、教員がきちんと授業研究を適切に運営できているかモニタリングしつつ、アドバイザーとしても働きかけていることが分かった。
三つ目は、授業研究などが継続性を保つため既存の制度の中に落とし込まれている一方で、実践の頻度やそれを行うための教員会議の時間等運営の詳細は学校に委ねられており、その実行頻度が高い学校では教員同士の関係性が良好な場合が多いということである。授業研究の会議の過程で、同じ科目の教員同士でそれぞれの弱みなど共有し合うことによって、信頼関係が生まれ、教員同士の間で「良い授業を行うためにはチームで動く」という認識が高まっていることが、教員へのインタビューを通して分かった。