For International
Students

GRM Students’ Reports

GRM履修生活動レポート

GRMプログラム成果報告書

社会学研究科 楊 慧敏

 報告者は2017年度、博士後期課程に進学すると同時に、GRMプログラム履修生となりました。これまでGRMプログラムの共通科目、コモン演習、インフラ科目、発展科目といった4つの科目群から11科目を履修しました。そして、それらの科目の履修を通して得られた主な知識や技能などについて次のような5点が挙げられます。
 第一に、履修科目、特に共通科目である「GRMオンサイト実習」や「GRMコモン演習」において、多くの研究科のGRMプログラム履修生との交流およびグループワークを通して、自然科学・理工学の知見と人文・社会学の知見の融合を図ったことです。報告者は、理工系や人文系の専門性の異なる複数の履修生とチームを組んで、「GRMオンサイト実習」ではケニアの地熱発電や福祉(非行少女の矯正支援、障害児の教育と自立支援)、琵琶湖疎水、そして「GRMコモン演習」では東南アジア国であるカンボジアのインフラ問題(安全な飲み水の確保)や子どもの高死亡率問題に取り組みました。その一例を挙げて説明すると次の通りです。
「GRMコモン演習」において、報告者のグループは、カンボジアにおいて水問題が比較的深刻であるOddar Meanchey州の州都であるSamraongを取り上げました。Samraongにおいて多くの住民は川や井戸から水質が確保されていない水を飲料水としています。そのような飲水は下痢、腸チフスなど多くの水系感染症を引き起こし、乳幼児が死亡する要因の一つとなっています。それに加えて、電力の普及率が低いSamraongでは電力を必要とする飲水システムを実装することが困難です。これらの現状や課題の分析を踏まえて、報告者のグループは、電気なしで汚染された水を浄化する重要な要素として二酸化チタン(TiO2)を利用する光触媒浄化という解決策を提起しました。
 しかしながら、上述したような問題意識や分析および解決策の提起に至るまでのプロセスは実に大変でした。理工系メンバーは、水問題の社会背景や影響より解決策に重心を置き、考えていくべきである(「課題解決型」)という意見がありました。それに対して報告者を含む文系メンバーの意見としては、水問題の内容そしてなぜその水問題の解決策を考えないといけないのか、つまりその社会背景と影響を明確にした上で、解決策を考えるべきである(「課題探究型」)というものでした。さらに、文系メンバーが理工系メンバー提示した解決策を理解するには時間を要しました。これらのことについて、グループメンバーは授業以外の時間も集まり、意見を出し合って最終的に上記の流れや内容に合意しました。
 第二に、多国籍のGRM履修生との交流を通じてグローバルな視点から、貧困や難民などの社会課題の深刻さを理解できました。報告者がよく通っていた志高館GRMコモンズルームはグローバルスタディ研究科が所在する建物の2階にあります。このコモンズルームでGRMプログラム履修生であるグローバルスタディ研究科の大学院生とお互いの研究について語り合いました。その研究内容としては、アフリカの貧困、子どもの教育問題や、中東の戦争、難民問題などがあります。中でも、アフリカの子どもの教育問題がもっとも印象的でした。
アフリカでは貧困により多くの子どもの教育を受ける権利が剥奪されています。その一部の子どもが労働力として働いたり、路上で物乞いしたりしています。実際、報告者は「GRMオンサイト実習」の履修でアフリカのケニアを訪問した際、路上で物乞いする子どもの多さを目視で確認しました。教育は子どもが貧困から抜け出し、子ども自身で未来を切り開く力となるものです。教育権利の剥奪によって、子どもが貧困から抜け出すどころか、貧困の悪循環に陥ってしまいます。NPOやNGOが寄付金や書籍を募ったり、教師を現地に送り込んだりしていますが、子どもの貧困や教育問題は依然として解決できていません。先進国である日本でさえ子どもの貧困問題を抱えている中、いかにして発展途上国の子どもの貧困問題、教育を受ける権利の保障問題の解決を図っていくべきかについて議論を重ねていく必要があります。
 第三に、エネルギーに関するインフラ科目群の受講や実験を通じて、風力や電力および水資源などの現状や課題を理解し、資源の有効利用や管理のための基礎知識を身につけました。SDGsが提唱されている中、資源の安定的な分配および持続可能な発展の可能性を探ることの大切さはいうまでもないことです。「GRM Introductory Science and Engineering」では、日本および諸外国の風力や電力の現状と課題の理解を深めました。
また、「GRMインフラストラクチャー基礎実験」では、工具を使用して電気工事、風力・ソーラーパネル発電の練習、整地機械であるショベルカーの免許の取得を行いました。これらの知識や機能は、資源の公正な分配や運用などという視点から多文化共生社会の実現に活かしていきたいと思います。
 第四に、自己理解の促進や個別相談がキャリアの形成につながったことです。発展科目群の「グローバル・リソース・マネジメント特論15」では、PROGテスト(結果から自身の現状を知り、ジェネリックスキルの成長を促すためのツールである)を受け、自分のリテラシーとコンピテンシーの構成要素ごとの強みと弱みを知ることができました。そのテスト結果報告書(2017年10月19日)の内容を少し紹介すると、コンピデンシーは、対人基礎力、対自己基礎力、対課題基礎力の3つの構成要素、そしてその3つの構成要素が9つの力に分けられています。対人基礎力と対自己基礎力において、それぞれ人に興味を持ち共感・信頼する力、主体的に取り組み完遂する力が報告者の強みである一方で、意見を主張しチームを高める力、自分を知り自信を引き出す力が弱みです。自己理解やそれを深める詳細のテストを受けたことがなかった報告者にとってPROGテストの報告書の分析は大変貴重な資料となっています。
 さらに、学期ごとにGRMプログラムの先生に博士後期課程修了後の進路について個別相談に乗ってもらう機会がありました。先生方からは、報告者が将来のキャリアに関する考えに基づいて適切かつ詳細なアドバイスをいただきました。それに加えて、博士後期課程3年生、そして4年生になったものの、博士論文の執筆がなかなか進まなかった報告者に対して先生方から励ましの言葉をいただきました。
 第五に、GRMプログラム履修を通じて、同志社大学はもちろん、他大学のリーディングプログラムの履修生と交流し、仲間を作ることができました。他大学との交流会や博士課程教育リーディングプログラムフォーラムに参加し、他大学のリーディングプログラムの履修生との交流を図りました。交流会やフォーラムは1日または2日間という短い期間でしたが、初対面のみなさんと一緒にグループワークおよびその報告を行い、充実な時間を過ごすことができました。
 また、上の1点目にふれたグループワークですが、メンバー同士の議論が白熱し、緊張感の漂う時がありました。そのような真剣な議論があったからこそ後にメンバー同士が仲の良い友達になりました。その後、メンバー同士でグループワークを振り返った時、「その時、よく「ケンカ」しましたよね。でも、そのおかげで自分と異なるバックグランドをもち、分野も違う皆さんの意見を知ることができて勉強になりました」と笑談しました。そして、私たちは今でも各自の研究の悩みや就職などについて交流しています。
 以上がGRMプログラムを履修して習得した主要な知識や技能の要約です。続いて、GRMプログラム履修と報告者の博士論文の関連性について述べたいと思います。
GRMプログラム、とりわけ共通科目群である「GRMフィールドリサーチ」ⅠとⅡの履修は報告者の博士論文の執筆にあたる資料収集に大きな役割を果たしました。これらの科目は名称通り、履修生がフィールドリサーチを行うものです。報告者は2018年度の春・秋学期にこれらの科目を履修し、中国の東沿岸部地域である上海市・蘇州市・南通市においてフィールドリサーチを行いました。なぜそれらの地域を選定したかというと、報告者の博士論文は日本以外にも、2016年に中国政府からの指定を受け、介護保険制度パイロット事業を展開する地域を研究対象としたからです。上海市・蘇州市・南通市は指定地域の一部です。
 中国政府は介護保険パイロット事業の展開を踏まえて中国の介護保険制度の枠組みを模索しています。しかしながら、当時は介護保険制度の施行状況および課題などがまだ明確になっていませんでした。そのため、報告者はまだ試行段階にある介護保険制度の施行状況の把握と、制度設計および制度施行上残されている課題を明らかにすることをフィールドリサーチの目的としました。
そして、目的を達成するために、上述の地域を訪問し、介護保険制度を運営する行政機関または行政機関から制度運営の委託を受けた民間保険会社、介護給付対象者に介護サービスを提供する施設の職員に半構造化インタビューを実施しました。そこから得られた結果の一つを紹介すると、介護保険給付の不公平問題です。より詳しく述べると、介護保険制度内で給付対象者に介護サービスを提供できるのは、各地方政府が規定した設備や職員の配置などの条件を満たし、指定を受けた施設のみです。しかし、それらの施設は都市部に集中しています。それに加えて、介護サービスの公定価格が規定されていない中国では、それらの施設の利用料金設定が高い傾向にあります。
 要するに、農村部住民は介護サービスにアクセスすることができず、介護給付が受けられない状態にあります。そして、設備や職員の配置より利用料金を重視する経済的困難な要介護者が、政府の指定を受けておらず、利用料の低い施設に入所する場合、介護給付対象者基準を満たしていても給付を受けられないという問題が生じます。これらの問題を解決するには、介護サービスの量的整備を行い、すべての要介護者の介護サービスへのアクセスや給付対象者の受給を確保していくことが考えられます。
 上述した知識や成果を得ることができたのは、GRMプログラムに携わる多くの先生方や事務局の方々に支えていただいたお陰です。皆様に心から感謝しています。
 最後に、報告者の博士前期課程から長年にわたり丁寧で熱心に指導してくださった主査の埋橋孝文先生にお礼を申し上げます。

研究活動・その他
一覧に戻る